2003/02/15

Dead End 私達の閉塞感




アラームの電子音で目覚める。
ベッドに横たわったまま目を開けて見慣れた天井を見つめる。
ココロを満たすのは諦念。

本能ではなく義務感。
義務感が私の肉体を「起床」のルーティンへ送り出す。

デジタル表示の現在時刻を確認して、
フルスピードで「やること」のスケジューリングをアタマの中で行う。
義務感でベッドから起き出し、ストーブに火をつけ、
キッチンで湯を沸かし、本能でトイレに駆け込む。
TVのスイッチを入れ、紅茶を飲みながらタバコを吸う。


2人分のランチボックスを作りながら、
キッチンで立ったままトーストをかじり、
アタマの中では会社での今日のミーティングをどう展開させようかと考える。
昨夜から置きっぱなしの洗い物を一気に片付け、
シャワーを浴び、歯を磨く。
TVのニュースの断片をインプットしながら、着替えて化粧をする。

ニュースは相変わらず事件、事故、惨状、闘争、紛争のオンパレード。
昔、知人が事故で死んだ時にそれが信じられなかった私は、
TVのニュースでその事故のレポートを見て、
初めて信じることができた。

でも今私はこの安全で快適な部屋の中に居て、
TVのスクリーンから伝えられるレポートを見て
本当に「それ」が起きている同じ地球に存在しながらも、
世界がとても遠くに感じられるようになってしまった。
私の住んでいるこの「箱」は、私と世界をこんなにも隔ててしまう。

小走りで家を飛び出し、自転車にまたがる。
外気の冷たい空気を吸う。
行き交う人々の存在する世界へ出る。
ウォークマンで電子的なオンガクをアタマに流し込みながら、
生活する人々、働く人々、
行き交うトラック、あくびする猫達の間を抜け
埋立地の独特の空気と匂いを浴びながら、一路駅へと向かう。
知り合いとすれ違いざまに、私の顔はつくり笑顔になるが、
それは交流を拒絶した表面上の礼儀。

空を見上げると、とても青い。
突き抜けるように青い空を見上げると、
自分がどこにいるのかが不安になってくる。
What a hell am I doing here?
そんな疑問を持ったら最後、生き残れることはできない。
だけど一体私はここで何をしているの?
私はちゃんと生きているんだろうか?
惑わされないように、ウォークマンのボリュームを少しだけ上げてみる。

地下鉄の駅には群集がいる。
一様に身だしなみを整えたビシネスピープルと学生ばかりだ。
規則正しく到着する電車は、
人の塊を飲み込み、吐き出し、飲み込み、また吐き出す。
死人の様に感情の片鱗もうかがえないサラリーマンと
意を決したかのように攻撃的な不機嫌さを隠そうともしないOL。
電車の「箱」の中には、悪意、敵意、苛立ち、
諦め、麻痺した感覚、鬱屈していく欲求不満、
抑圧された怒り、プライド、そんな空気が充満する。
目的駅に着くやいなや、足早に人混みのなかを器用に縫って、
一定のテンポで行進、進む。機敏に、非人間的に。

空調により乾燥しきった空気と、
眩しくて眩暈がしそうな蛍光灯の明るさで作り上げたオフィス環境。
ここが私の日の大半を過ごす場所だ。
部下への指示、他部署との調整、上司への報告、
同僚とのミーティング、派遣社員の面接、
外部業者との打ち合わせ、一般的なオフィスワーク。
情熱を傾ける必要の無い、
するべきことをし遂げるだけの会社の家畜。
早く抜け出したいという理由だけで、
休憩も取らずに「席弁」しながらガムシャラに案件を片付けていく。
窓から見える空は、朝と同じように遠く青い。
外部から隔離されたこの「箱」の中で、
今日も明日も、きっとそれからもずっと
囚われた感情を持ちながら同じことをくりかえす。

オフィスでの時間はとても速く流れる。
気がつくと、閑散としたオフィスで自分ひとりだけが残っている。
他に誰もいないと判ると、私はPCでCDを流しながら仕事を続ける。
同僚、後輩、上司の「ちょっと、いい?」攻撃に邪魔されながら行う日中よりも
ずっとずっと効率的に仕事がはかどる。
だけど誰の為に?
夕食の支度もできないほど遅くまで残業して、
家に戻れば家族の苛立ちに対面して、
一体得るものはなんなんだろう。
年収の数パーセントにしか影響されない仕事の評価が、
なんぼのものなんだろう。

Is this what you really want ?
情けないけど、答えは決まってるじゃないか。
遅い帰路につきながら、たったひとつの単純な疑問を
何度も何度も心のなかで否定している自分を見つける。

帰宅途中で見上げる空は、
残念ながら星ひとつ見つからない都会の夜空だ。


閉塞感に押しつぶされそうな時に読む本:「森の生活」ヘンリーDソロー

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